古代ローマ人と小麦粉、そしてシチリア料理とパン粉の話

シチリア料理に欠かせないものとは？

日本でどのくらいシチリア料理って知られているのでしょうか？

検索するとシチリア料理店もいくつも出てくるので、結構知られているのかしら？毎年シチリアへ料理の修業をしにいらっしゃる方も増えてますしね。

ではシチリア料理に必要なものは何でしょう？新鮮な魚介類？勢いのあるトマトやナスなどの夏野菜？それともレモン？それは勿論そうですが・・・。

実は意外と知られていないのが、パン粉です。シチリア料理にはパン粉が欠かせないのです。

「アンチョビのパスタ」といえば（上の写真）、日本での知名度はどのくらいでしょうか？と言うより知っている方はいらっしゃるのでしょうか？

少々地味なパスタなので、「定番シチリア料理」と検索しても、まず上位には出てくる事はないかと思います。

しかし！これはシチリア料理に欠かすことのできない「パン粉、松の実、レーズン」と言う最強トリオに、これまた欠かすことの出来ないアンチョビが加わった、ある意味シチリア人のソウルフードとも言える代表的なパスタなのです。

オリーブオイルとアンチョビで作ったソースの上に乾煎りしたパン粉がサクサクと食感が心地よく（トマトを入れた赤いバージョンもあり）、シンプルかつ味わい深い一品です。

この一品は乾煎りパン粉があって完成品であり、なしと言う事はあり得ません。

究極の貧乏人パスタなどと言う輩もいますが、いえいえ決してそんな事はありません。安い食材だからといって、バカにはできないのですよ。

古代ローマ人が小麦栽培に力を入れた政治的理由

カザーレ荘のモザイク、エクササイズする女性たち。世界で一番古いビキニ姿は、3世紀当時の体操着

シチリア料理とパン粉は切り離す事ができません。あらゆる所でパン粉が登場するのです。そしてこれにはちゃんと歴史的背景が存在しています。

古代ローマ帝国がポエニ戦争でカルタゴに勝利した事によって、ローマ人はシチリア島へ上陸します。

既にそれまでにフェニキア人、ギリシャ人が上陸していましたが、彼らは地中海貿易拡張のために、沿岸部に植民地を作っただけでした。

対して古代ローマ人は上陸後、「小麦栽培」の為に内陸へ、内陸へと侵入し、シチリア島を統一します。

ローマ人は国民を操る為には「娯楽とパン」を与えるのが最上の作だと信じ、小麦栽培に力を入れていたのです。

1番有名なのはローマのコロッセオだと思いますが、円形劇場でかなり野蛮な戦いを見せて楽しませ、パンでお腹を見たせておけば市民からの不満は上がらず、政治に関心を寄せる人も出なかったと言うことだそうです。ある意味政治政策ですね。

更にその当時はいつもどこかで戦争を行っていましたから、兵士達にも十分な食料を与えなくてはいけませんでした。

そう言う理由で古代ローマ人は広大な小麦畑を確保する必要があったのです。一般的にシチリアと言うと沿岸部の風景を思い描く方が多いと思いますが、内陸は至る所に小麦畑が広がります。

従って今現在でもシチリアは小麦生産量を誇り、細かい正確な数字が見つからなかったのですが、シチリアとプーリアでイタリアの小麦生産量の半分近くを占めています。

シチリアのパン屋さんは1日に2度以上パンを焼く

パンは道端でも売っています

シチリア人はパンが大好き。トラットリアやレストランで注文を終えた後、すぐにパンが運ばれてきます。

そして彼らはすぐにパンに手を伸ばします。最初の料理が運ばれて来る前にパンのかごが空になるなんてザラ。もうほぼ無意識に手を出していると言う感じです。

昔フィレンツェに住んでいた頃は「イタリアのパンは不味い」と思っていた私ですが、シチリアに住み始めてから考えが変わりました。

個人的な意見ですが、ここのパンは美味しい（多分プーリアの方が上かと思いますが）、北イタリアのパンは不味い。

シチリアはパン屋さんが1日に2度以上パンを焼く、唯一の州だと聞いています。個人的には唯一と言い切ってしまう自信はないのですが、かなり珍しい事だと言えるでしょう。

朝だけではなく、昼も夜も焼きたてのパンを食べたいと思うシチリア人、人気のパン屋さんは朝から夕方まで何度も焼いているところもあります。ランチのパンが余っているのに、夕方又焼きたてのパンを購入。

残念なことに、こちらのパンは翌日はすぐに固くなってしまい、美味しくない。

トースターで温めればそれなりに復活しますが、ブルスケッタ以外ではまずパンをトーストしない人達ですから、放置されます。

勿論捨てるなんて言う事はありません、硬くなったパンはおろしてパン粉となります。そう、だからシチリア料理にはパン粉がよく登場するのです。

（次ページへつづく）

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