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”ひたむきさと野性味を併せ持つ、華麗なる努力家” 藤井泰子さん(イタリア)

2021年4月30日

憧れの本場イタリアでオペラ留学生活

事務局:実際のイタリア生活はいかがでしたか?

泰子:新鮮でした。でも思い描いたものとは違ったスタートだったんですよね。なんだか汚かったし、文化の違いもあったし、思いのほか人は不親切だったから、若干心が折れましたね。

文化の違いでいえば、中級程度できても「できません」という日本人と、初級者なのに平気で「できます」というイタリア人や海外の人とのギャップ。

日本人の謙虚さって良い一面ではあると思うのですが、自分を表現したい人達が数多くいる世界では手を挙げて、肘で押しのけて、チャンスをつかむ力が実際必要です。正直、最初の数年は遠慮しすぎて、ちょっと無駄にしたと思います。

一方で、本場のオペラは学生レベルでも全然日本と違う点で、とても刺激になりました。勉強してきて自分の目指すところには近づいているはずなんですが、自分が上達すればする程、自分の理想とする到達点はますます遠のいていく感じで、まるで追いかけっこみたいです。一生勉強だなぁと思っています。

それに、いろんな「型」を身につけられたことも良かったですね。留学前は日本ならではの知識中心の型を勉強してきたんですけど、留学先ではイタリアならではのオペラ歌手としての大きな型を得ることができました。

例えばピカソは晩年の抽象的な表現が有名ですが、それまでには様々な作風を描いていますし、私の大好きな葛飾北斎は浮世絵画家として始まり、肉筆画、春画、漫画などあらゆる画法をやり尽くして晩年の迫力の作品を遺しています。

「型」とか「基本」はとても大事で、その土台の上に 初めて自分なりの表現をしていくのが伝統芸術ですね。芸術だけでなく社会においても、「自分らしさ」の表現はイタリアで特に求められるものです。

学校の試験にしても、筆記ではなく口頭で行い、自分の言葉で発表する機会がとても多いです。その場合、知り得た情報を右から左にそのまま出すのではいけないんです。

インプットしたものを自分なりの解釈とフィルター、肉付けによってアウトプットする。出された情報はさほど変わっていないかもしれないけれど、自分の内面には多くのものが残っていると感じます。

 

舞台は生き物。様々なハプニングも!

泰子:型を習得する一方でとても大事なことは、何事においても人の特性や瞬間的なカンを機動させることです。私は「野人的・野性味」と呼んでいますが、そうでないと、舞台につきものであるハプニングにも対応できませんし、それは人生に置いても同じですよね。

事務局:え!そんなに舞台上でハプニングがあるんですか?

泰子:はい、ありますよ~。音声のトラブルや、セリフのやり取りを間違えたり、衣装が脱げたりなんかも。

一番印象深かった事といえば、急遽代役として呼ばれ演じることとなったオペラ「蝶々夫人」です。リハーサルの時間もなく、演出家と舞台のイラストを見ながら動きだけを確認して舞台に上がった時のことです。

最後の場面では、蝶々夫人がお仏壇に父親の形見の小刀を取りに行き、それで自らの命を絶つという設定なんですけれど、お仏壇へ向かったら、すごく長くて大きな剣が飾ってあったんです。

事務局:ええ~!小刀のはずが長い剣に!?どうされたんですか?

泰子:もちろん続けるんですけど、うわ~って思いましたよ(笑)。通常は手に取った小刀を首に刺して自害するんですけどね。長い大型の剣ですから、うやうやしく両手で受け取った後にさっと大きく引き抜いて、胸のあたりを切りつける形にして乗り切りました。

事務局:ひゃ~!アドリブというか、スキルや勘が存分に活かされる場面ですね!

泰子:舞台は生き物で、マニュアルどおりにはいかないんですよね。客席から感じ受けとる空気で演者も変わっていきますし、面白いです。それが醍醐味でもあるんですけれど、その分演じる側の野性の力が必要です。

事務局:泰子さんからその雰囲気は感じますよ。美しいだけじゃなかくて「静と動」というか。芯の強さからくる自信のようなものでしょうか。

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