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シチリア・トラパニ地方、フェニキア人の塩田とアラブ人のクスクス

2020年10月3日
桜田香織

サラリーの語源は塩だった?!

イタリアで最も大きな州であり、地中海で最も大きな島、シチリア。

その地理的な理由で様々な民族が侵入し、その支配下に置かれ、文化が融合し複雑化してきました。その複雑化した文化が「食文化」にも表れています。

外から入ってきた食材や調理法が先住民のそれと混ざり合い、現在のシチリア料理が出来ました。

そう、シチリア料理はそのままこの島の歴史を語るのです。逆に言うと「食」を通して島の歴史が見えてくるのです。

紀元前8~7世紀頃。最初にこの島に足を踏み入れたとされているのがフェニキ人です。

昔の歴史の授業中に聞いたことのある、懐かしい響きではないでしょうか。フェニキアは今のレバノンです。

勿論先住民はいましたが、外から入って来たのはフェニキア人が最初で、パレルモからそう遠くない島西部のトラパニという町の沿岸部に植民地を作りました。シチリアを足がかりとして、地中海貿易拡張の為です。

そしてトラパニからマルサラにかけて、海岸線に沿って塩田を作りました。驚くなかれ、その塩田は今でも健在で、天然の海の塩が作られているのですよ。

塩田の塩は結晶化したらサリナイオと呼ばれる塩職人の手によって収穫され、山積みにされます。そしてテラコッタで覆い乾かします。(上の写真)

現在も一部を除き手作業で行われていますが、海水と塩と太陽の照り返しで、かなりキツイ仕事であります。

貴重な塩、給料が塩で支払われていた時代もありました。イタリア語で塩のことを「サーレ」と言いますが、これが給料を表す「サラリー」という言葉の語源になっていることをご存知でしょうか?

作業に適したブーツもサングラスもない時代、サンダルばきで海水に足を浸けなくてはいけず、塩の塊の上を歩かなければいけず、照り付ける太陽の下で肌はボロボロになり目もやられてしまいます。

実際この仕事に携わった人達は60才に手が届く頃には失明してしまう方が多かったとか。想像を超える過酷さだったようですね。

 

シチリア料理が美味しいのは、トラパニの塩のお陰?

昔は風車を使って海水を塩田へ引き入れていました。風車そのものは残っていますが、現在では勿論電動式のポンプを使用しています。

塩田はまず海に1番近い第一の塩田へ水を引き入れ、そこの海水が蒸発して塩分が高まるにつれて、第二、第三の塩田へと移動させます。

トラパニ地方はとても風の強い所で、この地域には塩作りに必要な海、太陽、風の三つの要素が揃っているのです。

この地方に目を付けた古代海の民フェニキア人、凄いですよね。

シチリアには岩塩も存在しますが、ほとんどは海の塩が使われています。

日本の普通の塩とは全く別物、舐めても舌にピリッとこないまろやかな味です。シチリア料理が美味しいのは、この塩のお陰もあるのではないかしら?

一時帰国時、母や友人から「お土産にはお塩が欲しい」と言われる程です。重いから結構大変なんですけど(笑)。

大抵の家庭では1日に1回はパスタを茹でます。その時に使うのもこのトラパニの海の塩。パスタ自体にしっかりと味を付けなくてはいけないので、結構な量が入ります。

なので塩の消費は日本よりもかなり多いと思いますが、ミネラル豊富な天然の海の産物は体に優しい。

という事で、料理の基本の基本である調味料「塩」は、2800年位前からシチリアで作られていたのでした。有難う、フェニキア人。

 

シチリア郷土料理「魚のクスクス」

その後時間は飛んで紀元後9世紀、シチリア島がアラブ人の支配下に置かれた時代がありました。

トラパニから地中海を挟んで向かい側はチュニジアであることから行き来が頻繁で、現在でもチュニジア人が多く住んでいます。

この街には郷土料理としてクスクスが存在します。クスクスと言えばスパイスの効いたアラブ諸国やアフリカの料理だという認識だと思いますが、シチリアにもあるのですよ。

しかも単に存在すると言うわけではなく「郷土料理」として。

「郷土料理」と言うのは、日曜日に集まった家族や親戚のためにマンマが作る料理、母から子へ、子から孫へと伝承される料理、それぞれの家庭にそれぞれの味付けが存在する料理です。

本家本元のアラブ諸国では、野菜、チキン、マトンのクスクスが主流ですが、ここトラパニでは「魚のクスクス」です。アラブ人が持ち込んだ料理とシチリアの魚、2つの文化のマリアージュと言えるでしょう。

パレルモでも食べることは可能ですが、残念な事にほとんどのお店ではインスタントのクスクスを使用しているので、きちんとセモリナ粉を蒸して作るトラパニのそれとは雲泥の差があります。

移動が可能となってシチリアへ足を運ぶ事が可能となったら、是非トラパニ地方へ。塩田を眺めてクスクスを食べれば、もうあなたはシチリアの長い歴史に触れたことになりますから。

Written by 桜田香織(イタリア)

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