イギリス留学時代、困ったことがある。それは授業の内容についていけない、とか、教授の言っている事がわからない、というようなものではない。
周りにいるイギリス人の、ごくごく普通の日常会話に散らばるスラングやイギリス独特の言い回しである。
例えば、天気の話をしている時、友人のベスが「うーん、でも明日の天気はちょっとドジ〜ね」と言う。ドジ?または新しく入ってきたクラスメートの話をしていても「ああ、彼はちょっとドジ〜よね」と言う。
どちらの場合も、カタカナの発音的には「ドジー」にしか聞こえない。
「なんなんだ、なんなんだ?」と不思議に思いながらも聞き流していたが、ついに意を決して、「ねえねえ、このドジ〜ってなんなの?どういう意味?」と聞いてみた。
するとそれは日本語で言うなら「なんか怪しい」というような意味だそうだ。
そういえば、例の新しいクラスメートは髪の毛ぼさぼさで年齢不詳、国籍不詳、誰ともしゃべらず暗〜い感じだけど、頭はすごく良くて確かに’ドジー’ なのであった。
この独特の言い回しはとってもBritishで、アメリカ人が使ったりはしないらしい。スペルは”dodgy”。覚えてしまえば、日本人にも発音はしやすいし使い勝手もいい。
例えば:
賞味期限がギリギリの食べ物や飲み物について― This milk is a bit dodgy!(この牛乳はちょっと怪しいわよ。)
ちょっと治安のよくない場所について― This area is dodgy… be careful ! (この辺りはちょっとガラが悪いから気をつけて!)
という具合である。
もう一つ、「これはとってもBritishだ!」と、イギリス人主人が自信を持って(?)言い切る表現に’Knackered’がある。確かに、イギリスではよく耳にする言い回しである。
例えば、昨日引越ししたばかりの友達が、‘Oh I am so knackered! ‘ と言う。日本人の耳には「ナッカー」というように聞こえる。
「すごく疲れた。消耗しきった。」という意味で受動態で使われることがほとんど。ただし、日本語の「疲れた」’I am tired’ とはちょっとニュアンスが違う。
英語の’tired’は疲れて眠くなっているような状態のことで、例えば20キロのマラソンをした後で ‘I am so tired!’ とは言わない。この時こそ’I am knackered ! ‘の登場である。(英語ならexhaustedに近い。)
なお、’Knackered’は物に対しても言える。
例えば「私たちのマレーシアの車は最後の方は窓も壊れていて、シートも破けていて、‘totally knackered’ だった。」 この場合は「消耗しきっている/おんぼろ」のイメージ。
息子のサッカーボールはたった一週間で’knackered !’。この場合、擦り切れてボロボロの状態をさす。
なお、’knackered’の語源は馬の医者、正しくはもう使いものにならなくなった馬を屠殺して皮を作ったりする業種のこと。
役に立たない、くたびれきっている馬を処理する、というところから「knackered(疲れ果てた、消耗した)」というスラングが生まれたとか。ううむ。やはり言語は奥が深い!
例えば:
「ロックダウン中、子供達の様子はどう?」と聞かれたら、’By the end of the day, I am so knackered! ‘(1日の終わりにはもうくたくたよ!)
ビジネスウーマンだったら、’I worked so hard this week and I am so knackered!’(今週すごく働いてくたくたよ!)
イギリス人と話す機会があれば使ってみてはどうだろうか。
次回はさらに、このイギリス英語の「王道」とも言える言い回しをご紹介します。お楽しみに!
Written by アレン真理子(イギリス)