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「笑ってしまう真面目な知的エンタメ本」変な論文 サンキュータツオ著

2020年12月26日

こんなことに時間と労力をかけて論文書いたの?

42年生きてきて、私なりに「人生とは」というのがなんとなく見えつつある。

語弊を恐れず言ってしまうと、「生きることに意味なんてなくてよい」というのが前提にあって、ただどれだけ自分自身を満足させられるかで人生の質が変わってくると思っている。

自分自身を満足させるということはすなわち、「好きなものや熱中する何か」があるということ。

「何か」の対象はなんでもよい。恋愛でも、仕事でも、スポーツでも、湯たんぽでも。

え。湯たんぽ?

そう。この広い世の中には湯たんぽに熱中しすぎて、論文まで出しちゃう人達がいるのである!満足度高すぎじゃない!?

今回ご紹介する本「変な論文」は、世に発表されている論文の中で異彩を放つというか、こんなことに時間と労力をかけて論文書いたの?と世間から言われそうな珍論文を紹介した本。

著者のサンキュータツオ氏はお笑い芸人でもあるが、14年間(猫の一生分だそうだ)大学に在籍した、日本語学を専門とする学者でもある。

大学の図書館で研究に関連した論文を探していた際に見つけたという数々の珍論文に対し、氏は芸人ならではの痛快な突っ込みをいれつつも、論文内容を丁寧に解説する。

まさに知的エンターテインメント本なのだ!

私はこの手の本にめっぽう弱いというか大好きなのだが、その期待通り、何度も声をあげて笑った。

 

生産性や効率性はなくても、満足度が高い

世間話に熱中している人が書いた論文のテーマは、1970年代に京都にいたという伝説的なホームレス、通称「河原町のジュリー」。

論文は、彼に関する噂を文献、ネット、聞き込みなどしらみつぶしに調べつくして計22項目、30ページ及ぶ大作だそうだ。お察しのとおり、ジュリーは沢田研二さん似のイケメンだったらしい。

ふと、夏休みの自由研究と言えなくもないのでは?という思いが湧き上がるが、読み進めるうちにこの論文は「世間話研究・第14号」という研究雑誌に掲載されていると知る。

研究雑誌に掲載されているということは、査読を経た立派な論文なのである。

と、それよりも世間話を真面目に研究、発表している人達がいるという衝撃。面白そうなことに人生の時間を費やしてるなぁと顔がニヤけてしまう。

そして、湯たんぽの論文である。

こちらも、本文中の表現そのままに書くと、才能の無駄遣いをされている大学の先生の情熱がすごい。

日本全国と海外から収集した湯たんぽを300点以上持つこの先生は、湯たんぽの歴史や形状などに関する研究論文を第5弾(!)まで発表しているのである。

徳川家康の利用していた湯たんぽの図も掲載されていて、へぇ!となる。そして徐々に湯たんぽに愛着が湧いてくるから不思議だ。

本書には上記を含む計13本の珍論文が掲載されている。

この本のいいところの一つに、著者が論文のいろはを大変わかりやすく書いている点がある。論文をしっかり読んだことが無い私でも論文の構成や意義を理解できた。面白いだけでなく知見も深められるのだ。

そして著者が論文を書いた先生達に連絡をとったり実際に会ったりして、彼らの研究への熱意を理解しようと務める点にも非常に好感が持てる。

興味をもって情熱を注ぐものがある人は満足度の高い生き方をしている。そこに生産性や効率性がないとしても何ら問題はないだろう。人生は他人にとやかく言われるものではないし。

情熱を持って研究している人と、それをへぇ、いいね!と理解しようとする人が共に多くいる社会は、豊かで素敵だ。

と、そんな事を思わせてくれる面白本。今ならKindle Unlimited 読み放題で読めるので是非、手に取ってみて欲しい。

Written by 周さと子(マカオ)

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